第1章 記憶にない。



「ここに新しいお家ができるんだよ」


” 青い色をした小さな小さなその鳥 ” が家族になってまもなく、
父と母が ” おでかけ ”と称し、電車を乗り継いで連れて行ってくれた場所があった。

そこは、まだ舗装されていない道より少しだけ高くなった空き地だった。


まだ小さかった私は、父と母が何を言っているのかよく理解できずにいた。
父と母に連れられて、たくさんの人にサヨナラのご挨拶にまわった。
たった数年なのに数え切れないほどの想い出ができた。


ベランダに干してある運動靴を落とすと、母がため息をつきながらひろいに行くこと。
同じ扉がいっぱいあるから、間違えて違うおうちのドアを開けてしまうこと。
母の手を借りずに階段の上り下りをすると、すごく大人になった気がしたこと。
一番上の5階まで登ると、世界征服でもしたかのような気分になれること。
雪が積もるたび、父が大きなかまくらと大きなオバQを作ってくれたこと。


仲良しのお友達や、住み慣れた場所とのお別れはとても淋しかったが
それ以上に動物と暮らせるかもしれない嬉しさが数倍勝っていたのを覚えている。


そんな、夢と希望を叶えてくれるであろう ” 新しいお家 ” へ引越して間もなく、
我が家に電話が引かれた。

その真新しい黒電話で、母がどこかに電話をかけているのじっと見ていた。


「よろしくおねがいします」


誰かに何かをお願いしていることだけは、なんとなく分かった。
数日後、小さな段ボールが届いた。


「あけてごらん」


そう言われて開けてみると、中には小さな柴犬が入っていた。
夢にまで見た ” 動物と暮らすこと ” が現実となった瞬間だった。
私は何の迷いもなくその柴犬に ” コロ ” と名付けた。


こうして” 青い色をした小さな小さなその鳥 ” は ” 幸せの青い鳥 ” へと変貌を遂げたのだった。

ころ
          純粋の柴犬かどうかはやっぱり謎に包まれている ” 二代目コロ ”





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