第1章 記憶にない。  第2章 コロ。  第3章 お世話。

家に帰ると私はすぐ母にその犬の話をした。
母は黙ったまま、私の頭をそっと撫でてくれた。


テレビや電話がどこの家庭にも当たり前のようにあるわけではない当時、
お菓子ひとつとっても ” 我慢することが当たり前 ” で、
たとえそれが辛く悲しいことであっても同じだった。


まだ子供の自分が何もできないもどかしさは
コロがいなくなってしまった時と同じ気持ちだった。



次の日の夜。
ごはんを食べている時に、父が言った。


「次のお休みに、またあの海に行ってみようか。」


そしてこう続けた。


「その時、もしもまたあのわんちゃんに会えたら、一緒に帰ってこよう」



私はその言葉と父の優しさに胸がいっぱいになった。
と同時に、まだ子供だとはいえ ” よく行くいつもの海 ” に ” 突然現れた犬 ” が
次の休みまで同じ場所にいてくれるとは考えられなった。

その日からの数日間は、とてもとてもとても長く感じられた。
日が経つにつれ、いて欲しいけれどきっと会えないだろうという思いが
どんどんと大きくなっていった。



そして指折り数えた ” 次のお休み ” が来た。
朝早くいつもの海に着いた私は、夢中で砂浜へと走った。



「のら!!」



” 幸せの青い鳥 ” が奇跡をもたらしてくれた瞬間だった。
父が微笑んだ。
私はその白い犬を小さな体でしっかりと抱きしめた。

のら
” いつもの海 ” で運命的に出逢った ” のら ”






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