七夕に、ある小さな出逢いがあった。

個人的に “毎年七夕は天気が悪い” と
勝手に決めつけているが、
今年は珍しくよく晴れわたった。

久しぶりに相方と
海まで自転車を走らせた帰り道。

小さな桟橋にカルガモの親子を見つけ、
自転車を止めた。

「にゃ~」

振り向くと、道路のむこう側に1匹の猫がいた。

「おいで」

ふたりのもとに来た“その子”の足は
赤く染まっていた。

毛並みもよく体格のいい
顔なじみのノラを多く見かける場所で、

初対面の“その子”は、
とても人懐こい割に薄汚れ
ガリガリに痩せ細っていた。

「お腹、すいてるんだね」

今年の暑さと言ったら半端がない。

ケガをしてやせ細っている“その子”が
この場所で元気に育っていけないことは、
一瞬で判断できた。

ふたりを行ったり来たりして甘える“その子”と、
何も語らないふたりに3時間が経っていた。

「どうしたい?」

相方が言った。

簡単なことではないとわかっていた。
でも答えは決まっていた。

「助けてあげたい」

キャリーを取りに帰った相方を待つ時間が
とてもとても長く感じられた。

かかりつけの病院へ着き、
事情を話て診察してもらった。

やはり車か何かにひかれたのだろうとの話だった。

レントゲンの結果、
状態は予想以上に深刻なものだった。

左後ろ足はささくれ折れていて、
ひふを突き破り飛び出ていた。

化膿した傷を見る限り、
4~5日は経っているそうだ。

「付け根から断脚が望ましいと思われます。
ノラちゃんということもありますので
おふたりで一晩よくお考えになって下さい」

応急処置として、傷口の消毒をしてもらい
家に連れて帰ると、
お腹も満たされ安心したのか
すやすやと深い眠りについた。

翌日、消毒を兼ねて再診に行った。

家族として迎える覚悟であることと
「できれば足を残してあげたい」
という希望を伝えた。

「難しい手術になるので
専門的な病院を紹介します」と、
ふたつの大きな病院を紹介してもらったが
予約がだいぶ先になってしまうことで、
一刻を争う事態にどちらも選択の余地はなかった。

「・・・耳の後ろを掻こうとするんです・・・」

私の言葉に少し考えて、先生が話し始めた。

「難しい手術ではあるけれど、
こちらでやってみましょうか。」

どんなに設備が整っていて
腕のいい先生が揃っている病院でも
実際に手術してみたら骨自体が細すぎたり
様々な事情で
形成できる状態じゃない場合もあるようで、

「詳しい検査をしてみて、
出来る限りのことをしてみましょう」と。

そして何方向からの細かいレントゲンの結果、
いちばん太い骨が
すでに腐り始めていることが分かった。

先生と相談の結果、
どこで断脚するかを見極めながら
手術を進める方向で
命最優先でお願いすることにした。

翌日の夕方手術が行われた。

23時過ぎに、手術は無事終わり、
たった今麻酔から覚めたと連絡が入った。

感染及び今後の生活も考え、
やはり大腿部付け根からの断脚となった。

骨から体内に入ってしまった細菌に対して
抗生剤を投与しながら
1週間入院治療を続けることになった。

翌日、術後初めての面会に行った。

あるはずの “もの” が無くなってしまったことに
慣れない様子ながらも
驚くほど元気だった。

翌日も、その翌日も、毎日面会に行った。

手術から5日目。

「検査の結果が良ければ
明日あさってにでも退院です」と言われた。

「名前は決まりましたか?」と聞かれ

「はい」と答えた。

ふたりのせいいっぱいの思いと、
たくさんの願いをこめて考えた名前を
手渡されたメモ帳に書いた。

『走太』そうた

7月15日、海の日。

『走太』は、晴れて家族になった。



続・いっくんの “それゆけ 一球入魂 ”-そうた1


続・いっくんの “それゆけ 一球入魂 ”-そうた3


続・いっくんの “それゆけ 一球入魂 ”-そうた2